ROR団周辺のブログで評判なので、買ってみた。
大変おもしろいです。
この本のなかで、提示されている「円の足枷」仮説とは、以下のようなもの。
- 長期的には、国内卸売り物価ベースの購買力平価が円安の天井として機能している
- この購買力平価は年率で平均3%程度の円高トレンドを描いていること
- 長期的な円高トレンドが投資家間に長期的なデフレ予想を定着させ、これが日米の金利スプレッドで3%程度のマイナスプレミアムを日本の長期金利に付与していること。
- 現在の「新ブレトンウッズ体制」下では世界的な名目金利が約4.5%程度の水準で金利を平準化させていること。これは、世界経済の潜在成長率が2.5%、世界経済のインフレ率が2%程度であることの結果であること
(P256-257)
この仮説の背景は以下のように説明されている
「円の足枷」論の肝は、「円ドルレートが何らか要因で先に決定される」変数であるという点にある。マッキノン=岡野の「円高シンドローム」論では、この「何らかの要因」が、日米貿易摩擦にともなうアメリカ東京の日本への圧力であるとされている。
(P83)
本の中では、現在はデフレ状況なのか、デフレが解消したのは、どのような構造だったのか、といったことを、経済統計手法をつかいながら、検証される。そして、その結果として
じつは、今回の景気回復がなぜ始まったのかについてはさまざまな見方が存在する。そのなかでももっとも一般的な見方は、「日本企業の自助努力説である」
(中略)
たしかに個別企業というミクロベースの話をすると、血のにじむようなリストラによる企業最盛は事実である。しかし、マクロベースの場合は、これを単純に集計すればよいというわけではない。なぜなら、日本全体の景気回復は、ある一企業のリストラによって会社を去った労働者が新たな職を得て、消費を拡大させなければ決して実現しないものだからである。(P44)
筆者は、2003年前半の回復局面において、デフレ解消局面の初期にみられたこれらの現象については、これまで繰り返された「デフレトレンドの中の循環的な回復」にすぎないとい考えていた。この見方は事後的には、はずれたが、やはり過去の回復局面ではそうであったように、この要因だけでは今回のデフレ解消を説明するのはかなり無理があったのではないかと、いまでも考えている。
その後の中小企業の設備投資拡大等を考えると、デフレ解消プロセスを進展させた一連の企業部門の回復、および設備投資の拡大は、これらの実体経済の要因とは別に、何らかの要因によって企業の先行に対するデフレ予想が後退し、それによって(1)将来の経営計画を積極的にするような中長期の成長期待が企業経営者に徐々に醸成され、(2)それにともなって、企業が中長期的な寺社の成長に必要となる適正資本ストックが拡大することで設備投資需要がでてきたこと、そして(3)設備投資ブールに火をつけた、と考えるのが、適切であると考えている。(P45-46)
掲載されたグラフをみれば、この本が膨大な検証を背景にかかれていることがわかる。力作だし、それに分かりやすい本。
で、「円の足枷」というタームはアイケングリーン*1の「Golden Fetters」を踏まえての命名らしく、読めばなるほど、という納得のネーミング。ただ、本を最初に手にとった時に、たぶんそこまで想像力が届かない。草思社あたりだったら、もっと狙ったタイトルつけるんだろうけど、この地味がタイトルが東洋経済らしいといえばらしい。
- 作者: 安達誠司
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2007/02/01
- メディア: 単行本
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*1:野口旭の「ケイザイを斬る!」では、アイケングリーンのことを、「当代随一の予言者的経済学者」としている。ハリ・セルダンに一番近い人なのかもしれない。