勘定奉行荻原重秀の生涯

この本の言いたいことは、最初の最初に書いてある。

教科書や概説書では、荻原重秀の名前の後には必ず、「幕府は改鋳による差益で莫大な収入を得たが、物価騰貴を招き、経済を混乱させた」などと言った否定的な記述が続いている。教師の説明ではしばしば「グレシャムの法則(悪貨は良貨を駆逐する)が持ち出され、改鋳の不当性が説明される。
しかしこの説明は少しおかしい。悪貨が良貨を駆逐して(良貨が退蔵れ)市場に出回る貨幣量が減少したのなら、物価は下落するはずである(デフレ)。もし物価騰貴を引き起こした(インフレ)のなら、両肩遺贈の影響はそれほど深刻でなかったということになる。いったいどっちなのだろう(P12)

ごもっとも。確かにその通り。
ということで、著者はこの荻原重秀が、天才的に優秀な経済官僚であり、その評価は新井白石との対立によって不当におとしめられた結果である、と説明していくわけである。

では、荻原重秀のどこがすごいかというと、(孫引きだが)以下の文章である。

貨幣は国家が造所、瓦礫を以ってこれに代えるといえでも、まさに行うべし。今、鋳するところの導線、悪薄といえどもなお、紙詡に勝る。これ遂行すべし。(P117)

このとおりなら、著者が指摘するとおり、荻原の主張は名目通貨の主張であって、革命的だ。
これだと、有能な官僚どころの騒ぎではない。天才の域に達している。


勘定奉行 荻原重秀の生涯 ―新井白石が嫉妬した天才経済官僚 (集英社新書)

勘定奉行 荻原重秀の生涯 ―新井白石が嫉妬した天才経済官僚 (集英社新書)