「クビ!」論。

ちょっと前に話題になっていた記憶があったのだけど、しらべてみたら、オリジナルは2003年に出た本でした。

この本をどう読むかなのだけど、ゲーム理論の応用編として読むのが一番妥当な気がする。
この本の中では、企業を外資と日本の企業と大きく2つに分類している。


[外資企業]

  • 職種に必要な人を必要な特に雇う。いわば職人をやとうようなもの。
  • 従って、必要なくなれば解雇する。
  • 外資において、有能かどうかは上司が主観できめるものであってそれ以上ではない。その人が有能かどうかとは違う次元。


[日本企業]

  • 企業に奉仕するための人をまるかかえで雇用する
  • 求められているのは1社員であっても会社全体の利益を考えることを求める。
  • 解雇は原則的におこなわないが、必要になった時は、人数枠で解雇する

で、ここでわかることは、その企業が解雇を始めたとき、それが実質的な指名解雇なのか、それとも解雇枠をみたせば極端にいえばだれもでいいのかによってとるべき戦略が違うということだ。

前者なら、指名されたあとで努力しても実質無駄だから、いかにして解雇されないように行動するかが重要。本文中にでてくる、ある人物の行動はそれにそっている。まず、人当たりをよくし、他人からいい人と思われるように行動する。そして、ここが重要なのだけど自分が変わっては会社が困るなら切られないのだから、いつでも自分にとって変われるナンバー2は確実につぶす。そして、重要なノウハウは自分のなかに抱え込んで外には出さない。これって、ちょっと前に成果主義における最適行動として報道されたのと同じだ。(ただ、この戦略をとると、上のポジションにあがる可能性も低くなると言うリスクを伴うはずだ)。そしてもう一つの事例は、訴訟をかかえた人事担当者はクビにならないという話だ。一般化して言えば、外部との(重大ではなく、かつ中長期に及ぶ)トラブルを抱えているとクビになりにくいというコトになる。

それに対して、日本企業の場合は、いかに希望退職の期間をのりきるかが重要な戦略になるということだ。日本企業の希望退職とは、一時の嵐のようなものだから、とにかく粘っていればやがて嵐も過ぎていくだろうという作戦である。


もちろん、世の中そんなにきれいに分類できるわけはない。外資だって業界が違えば文化は違うし、合弁だったり、日本に長くいる企業は日本企業化している。
いくら粘っても企業そのものがつぶれてしまえば放り出されるのは同じ。


じゃ、どうすればいいのかといえば、長期的に見て有利な戦略は、次の職が探しやすいようにキャリア形成していくということなのだろうな。次の職がきまりにくいキャリア形成を避けるには、会社の事情に関するスペシャリストにならないというこだ。

あと、目から鱗というほどでもないけど、外人は完璧など目指していないというのは、やっぱりという感じ。彼らにとってまず速度が重要で、その次に見込まれるトラブルが許容範囲かどうかだけが判断基準。トラブルを未然に防ごうという発想にはあまりなさそう。


開戦度より速度を重視し、効用最大化を戦略としてくる連中に対すると・・・、とりあえず疲れそう。



ところで、この本の中には、大きな矛盾がある。

著者は、後半で日本企業のリストラは終身雇用を約束し、会社による「裏切り」であると強く非難している。それは、外資の場合は、そもそも職人を雇っているのであって、長期雇用は最初から約束されている訳ではないからという彼の行ってきた解雇の正当化の裏返しになっている
ところが、彼が最初に首切りのキャリアをつくった会社というのは外資ではあるが日本的な雇用慣習の中にあった会社なのだ。そこで雇用されていた人は、いつでもクビになる可能性があると理解した上で入社していたとはあまり思えない。だとしたら、この時の解雇もまた、会社の「裏切り」であるはずだ。
彼は、この本の前半で外資系企業における解雇を非常に強く肯定するのだけど、それは彼自身にとって必要だったのかもしれない。彼の実質的なキャリアは、日本的雇用慣習の会社に成果主義を持ち込んで返す刀で大量の首切りをすることから始まっているのだから。

「クビ!」論。 (朝日文庫)

「クビ!」論。 (朝日文庫)