資本主義の未来

学生時代に、外書講読のゼミで、ロバート・ソローの成長理論を読んだ覚えがある。
で、ロバート・ソローとレスター・サローがごっちゃごちゃになちゃうのだけど、そんなの私だけ?


この本の前半で語られているのは、労働者の賃金の下落と、おなじ層の中での格差拡大だ。日本ではここ数年格差の問題が話題になっているが、この本によれば、アメリカで労働者の賃金がはじめたのは、1968年からだという。下落はすべての層でおこっており、実際には格差の拡大が同時に進行した。

1973年に、男性の賃金は、インフレを調整した実質ベースで下がり始めた。この場合もまた実質賃金の減少はじわじわと全体に拡がっていき、1990年代になると、あらゆる年齢層、あらゆる業種、あらゆる職業で、そして修士号や博士号を取得している人たちまでのあらゆる学歴グループで、男性実質賃金が下がり始めた。1973年から93年までに、国民一人あたりの実質GDPは29パーセント増えたが、フルタイムで働いているている男性の勤労所得(年収)の中央値は、3万4048ドルから3万407ドルへ、11パーセント減少した。(中略)過去20年間で実質賃金が増えたのは上位20パーセントの人たちだけだった。(P38)


資本主義の未来は、1996年にMITのレスター・C・サローが出版した本。なので、正直かなり古い本なのだけど、その予想はかなりあたっているのに驚く。いま、日本においておこっているのは、90年代にアメリカでおこった、Jobless recovery の再現だということを改めて認識させられる。


この本のなかの重要なキーワードは「要素価格均等化」だ。移動コストの低廉化によって、国境をこえて、人をふくめたすべての生産要素が、低い価格に収斂していく。結果的には、かつて先進国と第三世界との間で存在した、所得格差が、一つの国のなかに再現されることになる。

アメリカで最初におこったのは、先進国(OECD)諸国の間での貿易による賃金下落だったという。第二次大戦による被害をほとんどうけなかったアメリカでは、社会資本を利用することで、同じ労働力でも他の国より高い生産性を確保でき、高い所得を得ることができた。しかし、他の国の発展によってそのプレミアムが失われていったというのとだ。
次におこったことは、中程度の工業生産の世界での同じ現象。


アメリカでOffshoringという言葉が問題になりだしたのは、4,5年ほど前だったように思うが、通信網の発達による通信コストの下落は、工場労働以外においても要素価格均等化を進行させた。日本でもソフトウエア開発を海外で行うことが珍しくなくなってきている。この本の中で描かれたアメリカの状況はより進んできているというべきだろう。


(その2に続く)

資本主義の未来

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