現代思想 2006年2月増刊号 特集 フランス暴動 階級社会の行方

harowanwan2006-03-24

若者層向の雇用対策とされる、CPE「初期雇用契約」反対のデモが激化してきている。新聞等では、昨年秋のパリ郊外で発生した暴動との連続性を指摘する記事も見受けられるようになってきた。


という前振りをしたところで、現代思想の増刊が、特集・フランス暴動ということで購入。全部で30編ちかい文章の載った本なのだけど、大きく分けると3つのパターンに分類できる。


最初の一つは、この暴動の背景に関する分析で。ここで述べられているのは、この暴動が、イスラム問題ではなく、フランスの国内問題とくに、国内における「植民地」問題、「第三世界」であるという分析だ。暴れる若者たちは、フランスを否定しているのではなく、フランスに同化しているが故に、自分たちがフランス人として平等に扱われていないという異議申し立てを行っているというのが見立て方だ。


もう一つは、この事件に対するマスコミの報道に対する分析。ここでは、車への放火というのが、フランスではいままでも珍しい事件ではなかったこと、マスコミの取り上げ方は事件の大きさとシンクロしていないと言うことが指摘されている。乱暴にいってしまえば、いい絵がとれたから報道した、読者の望む解釈にあわせて取材した、他にもっといいネタがあったら取材はやめるという話である。


で、そして最後の一つは、国内の郊外をこのフランスの光景と重ね合わせてみる分析。(ただ、群馬での幼児殺人事件に表出した矛盾は郊外ではなく、過疎地域の現象だとおもうのだけど。)


この中で目についたのが対談記事、「フランス暴動をどうみるか」の中の以下の記述

サルコジ支持者だけでなく、日本の石原、小泉支持者とも関係する問題ですが、フランスの中流階級の人たちの間に、下に落ちるんじゃないか、という恐れが拡がっているように思います。現在、三〇、四〇代くらいの人たちで、自分たちは両親の世代より貧乏だ、と考える人が増えている。経済的な安定が見えない状況の中で、強硬な人たちを求める、という現象はもちろんフランスに限りません。その強い指導者が、自分たちを切り捨てる側であるにもかかわらず・・・・・・。(P57)

というのは、森永卓郎もどっかで指摘していた現象。ただし、それが構造なのか、背後にある別の構造が表面化したときに現れなのかは、正直わからない。

そして、アントニオ・ネグリ(この本の表記はトニ・ネグリ)の以下の指摘もちょっと異質。

郊外の爆発の背後には三つの要素が隠れています。まず、危機にさらされているのは、終身雇用と国家に支えられた無期限的成長を前提とする、フォーディズム的な産業モデルです。それから、この危機が、経済的なグローバリゼーションの過程と連結したのです。そしてこれに、福祉介入の危機を生むことになる、公共支出の凍結というネオ・リベラル的な政策が結合するのです。人種統合政策なんてまったく関係ありません。ここで問題になっているのは、フォーディズムの機器に対する政治的対応の全面的な欠如なのです。(P177)


ところで、ネグリというと、マルチチュードの元祖家元だとおもうのだけど、実はちょっと前までネグリハートという人名だと大きな勘違いをしていたことをここに告白します。


数年前 パリの東部の NOISY LE GRAND にある低所得者向けの集合住宅を見に行ったことがある。PICASSO ARENA と通称呼ばれるその建物は、Manolo Nunez Yanowskyが設計したかなり斬新なデザインの集合住宅。あちこち写真を撮っていても特に危ない雰囲気を感じることはなかったのだけど今いくとどうなのだろう。ただ、当時映画「エイリアン」の宇宙船のようだという何かの紹介記事を読んだ覚えがあることと、人気がなくて空虚な空間だという感じがしたことは今でもよく覚えている。


4/11/2006 追記
問題になっていたCPEについて、4/10 ドビルバン首相は、撤回を表明した。