社会保障のダイナミックスと展望
社会保障の歴史的な経緯から書き起こし、ここ20年の日本における社会保障の流れと問題点と、先行する事例としてのニュージーランドの福祉についてまとめた本。
この本をかったのは、このところマイブームなニュージーランドの福祉について調て知りたかったのだけど、ニュージーランドに関するところは、20ページほどで残念。ま、全体で130ページの本なのだけど。
で、ニュージーランドに関しての記述で目にとまったのは以下の2つの点。
一つは、人種差別に関する記述。
筆者がニュージーランドに1年間滞在し驚いたのは、政府関係者のほとんどが差別の存在を否定することであった。しかし、現実には職業における人種間の際は歴然としている。道路工事や施設などでの介護職、清掃などの単純労務でいわゆる3Kと呼ばれる職には白人(ニュージーランドでは約80%が白人、約15%が先住民マオリ、約5%がアジア系南太平洋諸島出身者)がほとんど存在せず、多くがマオリであった。
インタビュー対象者すべてに必ず「マオリに対する差別」問題を問うたが、異口同音に「否定」しながらも、こう付言した。「マオリや南太平洋諸島出身者は、子だくさんで酒をよくのみ教育にに熱心でない」と。これこそが差別ではないだろうか。(P103)
事実なのに、それが認識されていないというのは興味深い。意識に上がらないとすれば、それが当然だという認識が根底にあるということだろう。白豪主義のお隣の国も、あまり変わらない国だったということになる。
もう一つは、人口流出に関する以下の記述。
ニュージーランドでは、以前から若年層を中心に海外での就業経験を大事にする傾向にあったが、最近では知的専門職を中心に、よりよい就業条件(賃金等)を求めて海外移住する頭脳流出が問題になっている。特にオーストラリアへの流出が顕著で、2001年6月までの1年間に約1万1000人のオーストラリア人がニュージーランドに移住している一方、その4倍近い約4万20000人のニュージーランド人がオーストラリアに移住している。(P107)
NPMの先進国といわれるニュージーランドで人口の社会減はおこっているのだとすれば、NPMはいったい何を国民にもたらしたのだろうか。NPMのキモの一つはoutcome baseの評価なわけだけど、人口の社会減なんて一番の総合評価で落第しているようなものだろう。
あとの部分では、3章の「社会的排除」に関する記述は予想していなかったが興味深かった。ヨーロッパでは、「社会的排除」という概念が紹介されている。
最終章、7章ではいくつかの政策提言がなされているのだけど、この中で、全国一律の最低賃金制度と、すべてのモノにtれいが区の所得を補填するBI(Basic Income)のセットが提案されている。これ自体は理想主義的すぎるようにおもえるのだけど、フリードマンが「負の所得税( Negative Income Tax)を提案していたというのは、ちょっとびっくり。
社会保障のダイナミックスと展望―ポスト市場主義国家の社会保障を問う
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