虐殺器官

ハヤカワJシリーズの新刊。「小松左京賞最終候補作品」という帯につられて購入。


舞台は、9.11後の近未来。世界はテロ対策の為に極端な情報管理がなされて管理社会化している。主人公は、暗殺や誘拐を仕事とする米軍の特殊部隊員。彼らが、逮捕を命じられたアメリカ人ジョン・ポールはMITの元教授。MITをやめた後広告代理店で途上国の広報の仕事をしていたが、彼が仕事をうけおった国はなぜかやがて内戦状態となっていく。

この作品の第一の魅力は、言語を操ることでその社会を混乱に陥れるという発想と、先進国の平和を維持するために途上国を混乱させる、という設定。初期の山田正紀か、あるいは川又千秋の幻詩狩りを思い起こさせるようなテーマだ。

もう一つの魅力は、暗殺を業務とする特殊部隊の描写。情報機器や光学迷彩といった装備。そして出撃前にうける心理操作による倫理感のコントロール。人工筋肉をベースとした敵地潜入用の「空飛ぶ海苔(ポッド)」の生めかしい居心地の悪さ。


大きなテーマに対して、きらびやかにちりばめられたSFガジェットと、チョムスキーアクセルロッドからの引用が組み合わさって魅力的。


後で見てみたら、SFマガジンの8月号で、大プッシュしてました。ま、ハヤカワがそういう気になるのも当然という感じの傑作。


虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)