洗脳するマネジメント
ビジネス書といえばビジネス書だが(日経BPの本だし)、この本は「民族誌的現実主義」組織エスノグラフィーと呼ばれる領域の本。
内容は、著者がハイ・テクノロジーズ社(テック)という仮名の会社の文化について観察した内容を綴ったもの。(で、このテックとよばれるテクノロジーを優先する会社というのは、DECのことらしい。)そして、そのテックの中では「文化」が経営の手段として用いられていた、というのが著者の指摘だ。訳者金井壽宏の解説では以下のようにまとめられている。
文化とは優しさを装って個人を侵害する専制君主だ、という主張に本書で出会う。自由、自立を大切にする点、人を家族のように大切にする点がテック社のいいところだろう。しかし、自由は同時に厳しい。まず、自立的な文化の憂鬱は「バーンアウト(燃え尽き)」も自由だという点だ。テック社では燃え尽きる人々が多く、一般的な言葉である「バーンアウト」は、この会社の人が特有の響きを持ってよく使う言葉であるようだ。(P378)
で、さらにこの後、
キャリア・デザインをはじめ、あらゆる点で自己管理(自己責任という響きにも近い)が強調される。社内のキャリア・セミナーの場でも、受講生自身に「自分の人生とキャリアを管理する責任があるます」という言葉が強調される。自立と個人主義は、テック社では皆に役立ち、自らイニシアティブをとることが尊重される。会社に役立つには、自分のためになる行動から入っていって、会社への忠誠と自分自身への忠誠の間に矛盾がないことが理想とされている。人事担当の副社長は「社員は最も大切な資産だ・・・・・・危機に面したときの我が社の対応は、まず従業員を守ることである」とも強調する。人を監視するのではなく信じていると言いつつ、どこかでマニュピュレート(操作)しているのではないかという気配が本書のテック社の記述からは感じられる。(P379)
というのを読むと、ホワイトカラー・エクゼンプションの目指す世界というのがどういうものか想像できそうな気がする。もし、日本でもホワイトカラー・エクゼンプションが導入されたことを考えるならば、働く能力より重要なのは、燃え尽きないように仕事をコントロールする能力かもしれない。Work Hard, Play Hardなんてうっかりその気にならず、冷静に自分の耐久力を見極めないとね。燃え尽きるのも自己責任と言ってくるのは 目に見えているから。
で、同時にここの記述で類似性を思い出せるのは、浅間山荘への崩壊に至る赤軍派のキャンプ。組織の目的と自己を同一化してしまえば、迷いのない心地よい毎日がまっている。ただ、この状態で組織の崩壊が起こると自己が耐えられなくなるわけだけど。
また、
儀礼は認知面、情緒面で権限を行使する(あるいは、せめて行使しようとする)方法を管理職に提供するというテーマは、クンダが恩師のヴァン・マーネンとの共著による有名な論文で主張したことだ。デルタ・エアラインのフライト・アテンダントが深く演じるスマイルから「感情までが操られていること」を警告したA・R・ホクシールドと並んでクンダとジョンの師弟コンビは、ハイテク企業とディズニーランドの調査で、感情の問題を抜きに組織文化を捉えがたいことを主張した。(P389)
デルタの機内サービスというのは、一時顧客満足度のトレーニングなどで成功事例としてよく取り上げられていた。
原書は、1992年なのでかなり古い。
かつオリジナルは、著者ギデオン・クングの1985年の博士論文なので、ここで語られている出来事は20年以上前の出来事。
正直、いまでもIT系のベンチャーは(日本でもアメリカでも)これに近い気がする。さて、グーグルはどうなんだろう?
Engineering culture
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